アメリカの議会ではきょう(2月24日)、トヨタの豊田章男社長が下院の公聴会に出席し、急加速問題を受けた大規模リコール(回収・無償修理)について説明します。最大の焦点は電子制御システムです。
日本にいると、なぜアメリカの議会が「フロアマット・ペダル原因説」に納得せず、「電子制御システム原因説」にこだわるのか分かりにくいのではないでしょうか。コンピューターがエンジンの回転数を制御する「電子スロットル(ETC)」システム導入後に、トヨタ車で苦情や事故件数が急激に増えている――このことがアメリカでは昨年秋から広く報道されているからです。感情的な「トヨタたたき」とは少し違います。
昨年11月29日付のロサンゼルス・タイムズが1面トップで掲載した記事「データが示すトヨタの急加速問題」の要点を紹介します。
1)スチールケーブルの代わりにセンサーやマイクロチップでエンジン出力を制御するETC導入が本格化した過去10年で、多くのトヨタ車とレクサス車で急加速の苦情が急増している。
2)高速道路交通安全局(NHTSA)に寄せられた苦情を数千件調べると、ETC導入後に一部のトヨタ車で「意図しない急加速」の苦情が5倍以上に増えている。
3)トヨタは2002年式の「レクサスES」と「カムリ」にETCを初めて導入。2002-04年式の両モデルでは急加速の苦情が平均で年132件に達し、1999-01年式の年26件から急増している。
4)トヨタのピックアップトラック「タコマ」では2005年にETCが導入され、その後3年間で急加速の苦情件数は平均で20倍以上に増えている。ハイブリッド車のプリウスでも同様の傾向が読み取れる。
5)2002年式モデルの登場後、トヨタ車をめぐっては急加速を原因にした死亡事故が少なくとも19件発生。NHTSAによれば、同じ期間に急加速を原因にした死亡事故は、トヨタを除く全自動車メーカーを合計しても11件にとどまる。
以上はロサンゼルス・タイムズによる独自調査ですが、トヨタもNHTSAも否定していません。このようなデータを突きつけられれば、だれでも「トヨタの電子制御システムに問題がないのか徹底調査すべき」と思うはずです。世論の風向きを意識する議会ならばなおさらです。トヨタから「電子制御システムに問題はない」と説明されても、「はい、そうですか」と受け入れられないのは明らかです。
記事検索システム「日経テレコン」で過去の記事を調べてみましたが、昨年中は日本の大新聞はトヨタの電子制御システムについてほとんど何も報道していませんでした。基本的に「ペダルがフロアマットに引っかかり、急加速する恐れがある」というトヨタの説明をそのまま伝えていました。年明け以降も「ETC導入後に急加速の苦情が急増している」という現象について詳しく説明していなかったようです。
日本の大新聞はトヨタに遠慮していたのか、それともアメリカで独自調査する余力がなかったのか。国内で大勢の記者を「夜討ち・朝駈け」に投入して疲弊させるよりも、数人でもかまわないから調査報道チームを組成してアメリカへ派遣すべきではなかったのか。周回遅れですが、これから「消費者の立場に徹した報道」に期待したいところです。
話は飛びますが、民主党の小沢一郎幹事長の土地疑惑事件をめぐり、検察当局のリークに頼る報道に注目が集まりました。「新聞は検察の情報をたれ流し、結果的に検察の応援団になっている」との指摘があちこちでありました。企業報道でも同じ。検察と同様に大企業も権力側にあります。言うまでもなく、マスコミは本来、権力側の応援団ではなく、チェック役にならなければなりません。
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