訳書『市場の変相』が発売になりました。著者は世界最大の債券ファンドである米ピムコの最高経営責任者(CEO)、モハメド・エラリアン。一時、発売前の予約段階でアマゾンの総合ランキング第6位に躍り出て、予想外の喜びでした。
この本は、サブプライムローン危機を実質的に予言した本として、英フィナンシャル・タイムズ紙で「2008年度ビジネス・ブック・オブ・ザ・イヤー(2008年度最高のビジネス書)」に選ばれています。
翻訳を始めたのは昨年9月。その後、リーマン・ブラザーズが破綻するなどで、アメリカの金融危機が世界へ伝播し、「大恐慌以来の危機」と言われるようになりました。
わたし自身は、「大恐慌以来の危機」が発生しているさなかに、「大恐慌以来の危機」を事実上予測していた本を翻訳する格好になったわけです。目の前で展開するドラマをリアルタイムで実体験しているような臨場感を味わえました。
もう1つ、本書の翻訳作業に絡んで思い出深いことがあります。9月から年末にかけて翻訳を手掛けていたのですが、その時期はアメリカ移住直後と重なったのです。
学校・保育園に慣れない子供たちをなだめたり、家の中のゴタゴタを整理したり、医者を探したり、自動車免許を取得したり――。妻がMBAの学生だからあまり家にいないだけに、わたしが1人でやらなければならない場面が多かったです。
泣きっ面にハチだったのは、妻が免許やカードが入った財布をなくしたこと。わが家で自動車を運転できるのはわたしだけになり、学校・保育園への送り迎えを全面的に担当することになったのです。
とりわけ大変だったのが長女のK。英語のABCも知らない状態で小学校へ放り込まれ、ショックを受けたのです。日本では来年3月まで保育園なのに、いきなり偶数・奇数の勉強などをさせられ始めました。しかも、ちんぷんかんぷんの英語で。学校からひっきりなしに「Kが大変な状態。学校に来てください」などと呼び出されました。
会社員ではなく自営業者で立場でアメリカへ引っ越しするのは、想像以上に大変でした。当たり前ですが、何から何まで自分でやらなければならず、おまけに信じられないほど費用がかかりました。
つまり、目が回るような状況下で翻訳作業を続けたのです。早朝4時か5時に起きて、子供に邪魔されない状況下でパソコンの前で翻訳に没頭していると、「パパ~。仕事しているの?」という声――。
朝6時半、Kが起きたのです。これでその朝の仕事はおしまい。こんな毎日が続きました。今ではいい思い出ですが、毎日疲弊していました。
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